
木住の渕は渦が青黒く、そして深く渦巻く物凄い場所で、さらには川の上まで杉の老木が茂っているため、昼でも身の毛のよだつ淋しく恐ろしい場所でもありました。
この渕には大蛇(竜)が長年の間“主(ぬし)”として住んでおり、道行く人を捕って食い殺すことがしばしばありました。またその猛威は、上流の竜村(現在の鮭尾地区)まで奮っており、人々はたいそう困っておったということです。
さてそんな木住の渕での、ある夏のこと。大蛇(竜)のことなど何も知らない馬に乗った旅の武者が、この辺りにやってきました。
村人は「その先には竜がいるので、行かないほうが良い。」と旅の武者に忠告したのですが、武者は「かまわん、そのような大蛇など、わしのこの自慢の弓で退治してやる!」と言い残すと、そのまま渕のほうに行ってしまいました。
渕に着いた武者は、矢じりに毒を塗った矢を三本束ね、渕から飛び出てきた大蛇(竜)を一瞬のうちに仕留めてしまいました。
それを見ていた村人は唖然。まさか今まで自分達を苦しめてきた大蛇(竜)が、こんなに簡単に死んでしまうとは思ってもみなかったからです。
村人は、その武者に名を訊ねました。
「わしの名か?わしは山田修理将監秀次である!」
武者はその後、山田城を築き、この辺りを治めたということです。
さて村人達ですが、大蛇(竜)退治の日から村は連日のお祭り騒ぎ。大蛇(竜)のいない平穏な日々を感謝したのです。
そして名高い職人「春日」に依頼して、竜の彫刻を神社に奉納することにしました。こうして村には平和が訪れました。
しかし!
大蛇(竜)の彫刻を神社に奉納してからしばらくのこと。村にはおかしな噂が立つようになりました。どうやら竜の彫刻が、夜になると下の川へ水を飲みに来るというのです。
村人は困りました。彫刻の竜にはもう毒矢は効きません。
仕方がないので、竜が動き出す瞬間を見計らって、竜の目に釘を打つという方法を考え付きました。結果的にはこれが大成功!二度と竜の彫刻が動くことはなかったとのことです。
おしまい